人が辞めない組織を作る「人材受け入れ研修」のすすめ(前編)
-
- 組織づくり
- 教育・定着
課題編:売り手市場・退職代行時代のワナ

若手の早期離職は人事担当者にとって長年大きな悩みの種です。厚生労働省の調査によると、新入社員が入社3年以内に3割退職するという「3年3割」の数字は、過去30年間にわたりほぼ横ばいで推移しています。直近だけで見ても、記録的な売り手市場、就職活動の早期化、初任給の引き上げ、AIの台頭など、採用市場を取り巻く環境は大きく変化しています。
人事担当者の皆さまも、新入社員の定着率向上のため、内定者フォローやメンター制度の導入、1on1の実施など、日々試行錯誤を重ねて骨を砕かれていることと思います。それにもかかわらず、なぜ「3年3割」という数字は、30年間も崩れないのでしょうか。
様々な理由がありますが、今回は職場の環境・制度の面から見ていきたいと思います。
新人が求めているのはやりがいと成長
1つ目の要因は、パープル企業(ゆるブラック企業)の増加です。
以前は過酷な労働環境やパワハラなどが原因の離職も多く見られましたが、現在の日本は「働き方改革関連法」の施行や「パワハラ防止法」の義務化などを経て、職場のホワイト化が進んでいます。これにより、理不尽な理由で退職する人は減りました。しかし一方で、過度に職場のホワイト化が進んだ結果、充実感が得られない「パープル企業(ゆるブラック企業)」が増えてきました。転職市場の活況を背景に、「このままでは市場価値が上がらない」と、自身のキャリアのために早期に自社に見切りをつける若手社員が増えているのです。
実際に、エン・ジャパン㈱が20代・30代のビジネスパーソン1,200人に対して実施した「仕事を通じた成長実感」意識調査(2024)では、対象者の3人に1人が「仕事を通じた成長実感がない」と回答しており、それが理由で「転職を考えたことがある」と回答した人は9割以上に上るという衝撃的な結果も出ています。
ハラスメントが怖くて教えられない
2つ目の要因は、管理者や育成担当者が、ハラスメントを過度に恐れるあまり、若手社員に必要な指導すらできなくっていることです。
各種ハラスメントの予防対策が義務化され、現場の上司からは「どこからがハラスメントで、どこまでが正当な指導なのか境目が分からない」「下手に注意して、通報されたらどうしよう」といった不安から、「触らぬ神に祟りなし」と、部下に対し当たり障りのないコミュニケーションを取るケースが増えています。
しかし、つい最近まで学生だった新入社員は、失敗から多くの教訓を学び、社会人として成長していくものです。いつでも優しく肯定してくれる環境は、一見恵まれているように見えますが、本来必要な指導や叱責を受けていないので、結果として成長の機会を奪われていることになります。
さらに、このような一歩引いた関わり方は、職場における人間関係の希薄化にもつながります。かつては時に厳しい指導を通じた密なコミュニケーションのなかで、上司と部下、先輩と後輩の強い信頼関係が築かれていました。ハラスメントへの恐怖は、その信頼構築の機会を奪い、さらには帰属意識の低下も引き起こしているのです。
世代間ギャップが大きく、コミュニケーションが難しい
3つ目の要因は、上の世代と若手社員の間にある「働く価値観の世代間ギャップ」が大きく、コミュニケーションエラーを引き起こしやすいことです。
現代の若手は、終身雇用が崩壊し、目まぐるしい環境変化を肌で感じながら学生時代を過ごしてきました。そのため、短時間で高い効果や満足度を求めるタイパ(タイムパフォーマンス)の意識が当たり前となっています。
一方で、かつての泥臭く量をこなし、先輩の背中を見て育つといった育成手法は、無駄な時間の浪費と映り敬遠される傾向にあります。若手社員が何より重視しているのは、「目の前の仕事を通して、いかに早く市場価値(スキル)を高められるか」という点であり、下積み期間には価値を感じません。
現場の上司が、「この仕事を頑張れば、将来成長できる、出世できる」と声をかけても、若手社員には響かないのです。今求められているのは、「この仕事を頑張ればどんなスキルが身につくのか」を明確に言語化して伝えることです。それがないまま、新人だからとルーティンワークや単純作業ばかり依頼していては、若手社員は「この会社には成長の機会がない」と判断し、早期に自社を見限ってしまうのです。
売り手市場、転職市場の活況を経験してきた現代の若者は、自身の価値をよく理解しています。さらに、退職代行サービスなどの普及により、会社を辞めるハードルも格段に下がりました。そのため、「思っていたのと違う」と感じたとき、耐えるのではなく、スピーディーに環境を変えることは若手社員にとって一般的な選択になっています。
こうした世代間のギャップを無視したまま、従来の常識でコミュニケーションを続けていては、若手社員に仕事の意義が伝わらず、働くモチベーションを下げ、早期離職のきっかけを作ってしまうことになるのです。
1on1など制度はあるが、かみ合わない現実
4つ目の要因は、制度の形骸化です。
弊社が「新卒3年以内に離職した20代111名」を対象に実施した調査によると、1on1などの面談制度を導入している企業の割合は93.7%に上りました。ほとんどの企業で、上司と部下が対話する機会自体は設けられていることが分かります。
しかし、面談で「本音を話せていたか」という問いでは、面談の機会があった104名のうち「十分に本音を話せていた」と回答したのはわずか16.3%にとどまりました。実に8割以上の若手が、面談の場で本音を隠していたのです。
本音を話せなかった理由の第1位は「何をどう伝えればいいか分からなかったから」(54.5%)、次いで「話しても変わらないと思ったから」「評価や立場に悪影響があると思ったから」(各36.4%)という、諦めや冷めた声、恐怖心が並びました。さらに、「上司とのコミュニケーションがもっとうまくいっていれば、退職しなかった可能性があるか」という問いに対し、全体の86.5%が「対話が改善されていれば離職を避けられた可能性がある」と回答しています。
多くの企業が1on1などの制度を導入し、上司と部下のコミュニケーションの機会を設けているにもかかわらず、若手からは「相談しづらい」「話しても変わらない」「本音を話せない」という声が上がっています。このデータが物語るように、若手社員の早期離職を防ぐ鍵は「制度の有無」ではなく、「コミュニケーションの質」にあります。
第 1回では、現代の早期離職を生む4つの要因を整理しました。次回はこうした職場環境・制度の課題を解決し、早期離職を防ぐための受け入れ側のマインドとスキルを磨く方法をお伝えします。

— この記事の著者
シーズアンドグロース 代表取締役 河本英之
上智大学卒業後、(株)リンクアンドモチベーション入社。その後、2010年に独立しシーズアンドグロース(株)を設立。「人の可能性を信じるという」理念を掲げ、独自かつフルオーダーメイドのサービスで、大手から中堅・中小企業まで幅広い企業の新卒採用・人材育成を支援する。企業と学生のミスマッチ防止イベント「カレッジ型イベント(R)」では講師を務め、年間5,000人以上の就活生の決断に影響を与える。その他、経営者・人事担当者向けセミナー講師としての登壇、書籍の執筆なども行う
【出典元】
本記事は『月刊 人事マネジメント』26年7月号に掲載されたものです(転載許諾済)。
記事の無断転載・複製を禁じます。