会社の未来を見据えた人材戦略~「採用」と「受け入れ」の両面からアップデートを~(第1回)
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【第1回】革新人材は、なぜ必要なのか

跳ねた人材・革新人材が採用できない・定着しない
既存事業の成長鈍化、急速な技術進化、顧客ニーズの多様化、人口減少。このような状況において、従来の延長線上では企業が存続できないという危機感を、多くの経営層・人事が抱いています。そこで、企業は会社を成長・存続させるために,新たな視点やスキルを持つ、多様な人材の採用を急務としており、DEI(Diversity・多様性/Equity・公平性/Inclusion・包括性)が、組織のすべての人に対して尊重され、それぞれの能力を最大限に発揮できる環境の構築が求められています。
実際、「従来とは異なる発想を持つ“跳ねた人材”が欲しい」「組織の中で突き抜けた存在となる“革新人材”を採用したい」という声を、企業の新卒採用担当者や経営層から最近よく耳にするようになりました。特に経営層においてその傾向は顕著です。
しかし、実際に革新人材を採用できている企業は決して多くありません。また、仮に採用できたとしても、その人材が組織に定着しているケースはごく一部です。せっかく採用できた革新人材が、目立った成果を出せないまま埋もれてしまったり、早期に離職してしまったりするケースも少なくありません。
つまり課題は、採用できないことだけではなく、採用した後に、定着・活躍してもらえるような受け入れ側の体制を整えられていないことにもあります。
革新人材の採用と定着3つの困難な要因
●定義があいまい
採用と定着を難しくしている1つ目の要因は、革新人材の定義があいまいなまま採用活動が行われていることです。
「今までにいないタイプの」「前例にとらわれない」「自ら考えて動ける」。どの企業も革新人材について同じように形容します。しかし、その人材が具体的にどのような志向性を持ち、どのような行動を取り、どの程度の知識や専門スキルを持つことを期待しているのかまで言語化できている企業は多くありません。
「革新人材」が便利な言い回しとして担当者や現場ごとの共通認識がないまま扱われています。社内で革新人材に対する共通認識が取れていないということは、「どのような跳ね方をする人材を狙って採用したいのか」が定まらず、結果として狙い通りの採用ができないことにつながります。
共通認識が取れていないことで起こる問題としてよくあるのが、選考過程で面接した担当者が、跳ねた人材ゆえに「部下になったら育てにくそうだ」「うちっぽくない」といった理由で落としてしまうケースです。人間は既知のことには安心感を抱き,未知のことには不安を感じるものです。だからこそ、会社として革新人材を採用していきたいのであれば、事業計画や人事計画を担う経営層や人事だけではなく、会社全体で革新人材に対する共通認識が必要不可欠なのです。
また、会社として革新人材に対する共通認識が取れていなければ、説明会やリクルーター、OB・OG訪問などを通し、企業が学生に対して、本当に求めている跳ね方を具体的に共有できません。このような状態で選考が進めば、入社後にミスマッチが起きるのは当然といえるでしょう。
●期待と現実が違いすぎる
2つ目の要因は、変革への負荷が新卒にかかり過ぎていることです。
「若手から会社を変えていってほしい」「会社を牽引する尖った存在になってほしい」。多くの企業が若手社員に対して、このような期待を語ります。一方で、評価制度、意思決定のプロセス、失敗をどう受け止めるのかという姿勢が従来のままというケースは少なくありません。表向きは挑戦を歓迎していても、実際には従来通りの行動のほうが評価され、安全に過ごそうとする風土が強い環境では、跳ねようとする若手ほど強い違和感を抱くことになります。その結果、革新的な人材ほど組織に馴染めず、早期に力を発揮できない、または早期に離職してしまうというケースが多く見られるのです。
よく、跳ねた人材が早期離職した際に、「うちの会社に合わなかったから辞めた」と早期離職の要因を辞めた本人に帰属させるケースがあります。しかし、定着しないという課題を辞めた本人に帰属させているばかりでは、組織の仕組みは変わらず、どれだけ革新人材を採用しても定着させられない状況が続くだけです。定着しないという課題に対しては、組織の設計の問題として捉える必要があります。
●学生が実態をよく知っている
3つ目の要因は、学生側が企業の実態をよく調べているという点です。
今の学生は、企業の発信や説明会の言葉だけを鵜呑みにしません。若手がどこまで裁量権を持っているのか、どのような志向性を持つ人が働いているのか、何が評価され、失敗がどう扱われるのか。OB・OG訪問やSNS、口コミサイト等を通し、組織の実態を多角的に捉えています。そのため、「革新人材を採用したい」と掲げながら実態が伴っていない企業は、そもそも応募の段階で選択肢から外されていきます。仮に入社したとしても、入社前に抱いた期待とのギャップが大きければ、定着にはつながりません。
環境変化に対応する革新人材が必要
このように、革新人材を巡る問題は「跳ねた学生がいない」ことではありません。問題は、跳ねる人材を受け入れ、その人材を活かし、会社として育てていく仕組みや土壌が組織として整っているかどうかです。
ここで、「本当に革新人材が必要なのか?」「うちっぽい学生を採用するだけではいけないのか?」と思う方もいるかもしれません。確かに同質的な社員で構成された組織は、一見安定して見えます。価値観や判断基準が似ていることから、意思決定が早く、衝突も少ないため、短期的に見れば、安心感のある効率的な組織だといえるでしょう。しかしその安定は、環境の変化が無いという前提に成り立つものです。事業環境が日々変化する今、同質性の高い組織が直面するリスクは、その変化に対応できないことです。
例えば、
・ 顧客ニーズが変化しているのに、これまでの成功モデルを前提にした商品開発しかできない
・ 技術が進化しているのに、従来の技術を前提とした業務プロセスしか描けない
こうした状態が起きるのは、同質的な組織が事業環境の変化に対して過去において正しかった判断を基に意思決定を行うからです。その結果、組織として合理的で効率的な判断を積み重ねているにもかかわらず、変化する事業環境とのギャップはどんどん広がり、市場競争から取り残されてしまいます。これは、多くの企業が経験してきた失速の要因です。だからこそ、多くの企業が革新人材の必要性を感じ続けています。
では、どうすれば革新人材を採用し、定着・活躍につなげていくことができるのか。革新人材を採用する前に,企業は具体的に何を決め,何を設計し直す必要があるのか。次回は、新卒採用の現場の実例をもとに、革新人材の採用・定着を同時に実現していくための考え方を掘り下げていきます。

— この記事の著者
シーズアンドグロース 代表取締役 河本英之
上智大学卒業後、(株)リンクアンドモチベーション入社。その後、2010年に独立しシーズアンドグロース(株)を設立。「人の可能性を信じるという」理念を掲げ、独自かつフルオーダーメイドのサービスで、大手から中堅・中小企業まで幅広い企業の新卒採用・人材育成を支援する。企業と学生のミスマッチ防止イベント「カレッジ型イベント(R)」では講師を務め、年間5,000人以上の就活生の決断に影響を与える。その他、経営者・人事担当者向けセミナー講師としての登壇、書籍の執筆なども行う
【出典元】
本記事は『月刊 人事マネジメント』26年3月号に掲載されたものです(転載許諾済)。
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