会社の未来を見据えた人材戦略~「採用」と「受け入れ」の両面からアップデートを~(第3回)

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【第3回】革新人材の受け入れ3つの視点

本連載では、革新人材の採用について取り上げてきました。第1回で、革新人材の定義の曖昧さについて、第2回では採用側の設計(求める人物像の明確化、メディアミックス、ピンポイント就活)について解説してきました。しかし、革新人材の定義を明確にし、実際に採用までできているにもかかわらず、その後の定着・活躍に結びつかないという声を、現場から多く耳にします。「革新人材として採用したものの、期待した成果を出せていない」「早期に離職してしまった」……こうした課題は少なくありません。これらを採用された個人の能力や適性の問題として捉えてしまうと、課題の本質を見誤ることになります。多くの場合、課題は個人ではなく、受け入れ側の設計にあります。では、受け入れ側が持つべき視点とは何なのでしょうか。それは以下の3つに集約されます。

①退職理由を本人に帰属させない
②通常人材とは異なる配属先や上司の選定と、受け入れ側の育成
③通常人材との融合

【視点1】退職理由を本人に帰属させない

革新人材が早期離職した際、現場からよく聞かれるのが、「うちには合わなかった(から仕方ない)」という声です。しかし、この一言で片付けてしまう限り、同じ問題は繰り返されます。本来問うべきは、以下のような受け入れ側の設計です。

・ 配属は適切だったか
・ 期待値のすり合わせはできていたか
・ 評価は適切に行われていたか
・ マネジメントに問題はなかったか

離職理由を個人に帰属させるだけでは、組織は改善されません。その結果、同様の離職が繰り返され続けることになります。

具体的には、採用時に抱いていた「この会社なら新しいことにチャレンジできる」「挑戦が評価される」といった期待と、配属後に求められる役割との間にズレがなかったかという点です。選考では評価されていた志向性や行動が、配属先では評価されない、あるいは上司や周囲から抑えることを求められるような状況になっていないか。このような不一致が生じている場合、それは革新人材本人の問題ではありません。

革新人材の定着・活躍における問題は、「個人」ではなく「組織」の設計の問題と捉え、常に改善し続けることが重要です。

【視点2】通常人材とは異なる配属先や上司の選定と、受け入れ側の育成

革新人材を採用した際に、まず考慮すべきは配属先です。

通常人材と同様に、配属先や上司・メンター等を振り分けた場合、革新人材は前提や思考が既存社員と異なるため、現場から「扱いづらい」と評価されることがあります。また、上司やメンターなどの育成担当にとっても、これまで育成してきた人材とは異なる志向性や行動に戸惑い、限界を感じる場面が生じるかもしれません。

一般的に、通常人材は配属先に適応し、既存の組織文化や業務プロセスを学び、踏襲することで、組織の一員に成長していきます。一方で革新人材は、前提を疑い、既存のやり方に疑問を提示し、時には既存のやり方を壊して新しいやり方を推進しようとする存在です。この対比構造が、現場との摩擦を生みやすくします。

だからこそ必要なのは、革新人材の受け入れを“通常の配属業務の延長”で行わないことです。

具体的には、専任の上司や部署を設ける、もしくは革新人材に対する受け入れ先の理解を深めたうえで、上司やメンター・OJT担当者など、受け入れ側の育成を行うといった対応が求められます。革新人材の採用は、どのような役割を期待するのか、どのような配属先が適切なのか、どのように育成するのか、さらにその志向性や行動を既存の評価制度にどう結びつけるのかまで含めて設計する必要があります。革新人材は、採用すれば自然に組織に適応する人材ではありません。戦略的に配置し、育成していくべき存在なのです。

【視点3】通常人材との融合

ここで注意していただきたいのが、 “革新人材を特別扱いしすぎないこと”です。革新人材の受け入れにおいてよく見られる失敗では「過剰な裁量を与える」「特別扱い」などが挙げられます。確かに、革新人材は企業の変革を担う、いわば期待を背負った存在です。しかし、その期待ゆえに、明確な目的や期待役割を定めないまま、いきなり新規事業を任せたり、上司を飛ばして発言できる環境を与えたりして、過剰な裁量を与えてしまうと、本人が「自分はできる人間だ」「自分は特別だ」と過信しやすくなるだけではなく、周囲が不公平感を抱き、結果として組織内で浮いた存在になってしまうリスクがあります。こうした状況は、本人の成長機会を奪うだけではなく、組織全体の納得感や一体感を損なう要因にもなります。

だからこそ重要なのは、「特別扱い」ではなく、「期待役割の設計」です。革新人材に期待する役割やミッションを明確にし、専用の配置・育成・評価を考慮しつつも、評価の基本となる部分や組織のルールは、あくまでも既存社員と共通であるべきです。革新人材は、特別な存在ではありません。新しい価値を発揮する社員の1人、組織の一員として位置づけることが重要です。

このように、革新人材の受け入れにおいては、以下の3点が重要になります。

・ 原因の帰属の考え方
・ 受け入れ側の体制(理解・制度・評価・専任設計)
・ 扱い方(周囲とのバランス)

これらは、いずれも特別な取り組みではありません。むしろ、大量エントリー・大量採用の時代ではなく、ピンポイント就活・一人ひとりの個を見ることが求められる時代においては、各社がすでに取り組まれている基本的な考え方です。しかし、新人材のように既存のやり方からズレやすい存在を受け入れることで、これまで表面化しなかった組織の課題が明らかになるのです。

第1回で、既存事業の成長鈍化、急速な技術進化、顧客ニーズの多様化、人口減少などを背景に、従来の延長線上では企業の存続が危ぶまれる時代であること、また同質的な社員で構成された組織は、一見安定して見えるが、事業環境の変化に対応できないリスクがあることをお伝えしました。だからこそ、多様な人材の採用は急務です。DEIの時代において、単に革新人材を採用するだけでは、課題は解決しません。むしろ、採用後の設計こそが、結果を大きく左右します。

革新人材の採用に乗り出すということは、「採用の仕方を変える」ということではなく、「受け入れ側の構造を変える思決定をする」ということです。みなさんの会社は、革新人材を「採用する準備」だけではなく、「定着・活躍させる準備」までできているでしょうか。

— この記事の著者

シーズアンドグロース 代表取締役 河本英之

上智大学卒業後、(株)リンクアンドモチベーション入社。その後、2010年に独立しシーズアンドグロース(株)を設立。「人の可能性を信じるという」理念を掲げ、独自かつフルオーダーメイドのサービスで、大手から中堅・中小企業まで幅広い企業の新卒採用・人材育成を支援する。企業と学生のミスマッチ防止イベント「カレッジ型イベント(R)」では講師を務め、年間5,000人以上の就活生の決断に影響を与える。その他、経営者・人事担当者向けセミナー講師としての登壇、書籍の執筆なども行う

【出典元】

本記事は『月刊 人事マネジメント』26年5月号に掲載されたものです(転載許諾済)。

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